近年、多くの中小企業や個人事業主が会計業務の効率化を求めて「クラウド会計ソフト」を導入しています。弥生会計オンライン、freee、マネーフォワードなどが代表的なサービスで、インターネットを介してリアルタイムでデータを確認・共有できる点が特徴です。
このクラウド会計の普及によって、税理士との関係性や連携の仕方も大きく変わりつつあります。この記事では、クラウド会計の導入が税理士との連携にどのような影響を及ぼすのか、またそのメリットとデメリットについて詳しく解説します。
そもそもクラウド会計とは?
クラウド会計とは、ソフトをPCにインストールせず、クラウド上のサービスを通じて会計業務を行う仕組みのことです。インターネット環境があれば、場所や端末を問わずデータの閲覧や入力が可能で、複数人での同時作業やリアルタイムのデータ共有ができます。
また、銀行口座やクレジットカードとの自動連携により、仕訳の自動化やミスの防止にもつながる点が評価されています。
税理士との連携はどう変わるのか?
リアルタイムな情報共有が可能に
従来の会計処理では、領収書や帳簿を紙で税理士に渡す、あるいはExcelや会計ソフトのデータをメールで送るといった方法が主流でした。これに対しクラウド会計では、事業者と税理士が同じデータにアクセスできるため、リアルタイムで経理状況を把握・確認できるようになります。
これにより、決算時だけでなく、月次や四半期ごとにスピーディなアドバイスを受けられるようになり、経営判断のスピードも向上します。
業務分担の明確化
クラウド会計では、仕訳入力を事業者自身が行い、チェックや申告業務を税理士が担当するというように、業務分担が明確になります。税理士に丸投げするスタイルから、「経営者が経理を理解し、積極的に関わる」スタイルへの転換が進みつつあります。
一方で、入力ミスや設定ミスがあると税理士側の負担が増すケースもあるため、導入時には業務範囲や作業内容についてしっかりと取り決める必要があります。
クラウド会計導入のメリット
1. 税理士とのコミュニケーションがスムーズに
クラウド会計を利用すれば、双方が同じ画面を見ながらやりとりできるため、質問や確認事項のやりとりが簡単になります。過去のデータを探す必要もなく、具体的な金額や取引をその場で共有・修正できます。
2. 経営の見える化が進む
クラウド会計では、日々の入出金が可視化され、月次の収支やキャッシュフローもグラフや表で確認できます。税理士からも分析やアドバイスをリアルタイムでもらいやすくなるため、経営改善に役立てやすい環境が整います。
3. 会計処理の効率化・自動化
銀行やクレジットカードとの連携により、仕訳データが自動で生成されるため、手入力の手間やミスを減らせます。税理士の側でも、チェックや修正にかける時間を短縮でき、より付加価値の高い業務に集中できます。
4. ペーパーレス化の促進
領収書や請求書をクラウド上で保管・共有することにより、紙でのやりとりが不要になります。電子帳簿保存法やインボイス制度への対応もクラウド会計ソフト側で自動化されており、制度対応の負担も軽減されます。
クラウド会計導入のデメリット・注意点
1. 操作・設定ミスによるリスク
事業者自身が会計ソフトを操作することになるため、初期設定や勘定科目の選択ミスなどが発生する可能性があります。間違った情報が蓄積されると、税理士による修正作業が発生し、かえってコストや時間が増す場合もあります。
2. 税理士との役割分担があいまいになりやすい
クラウド会計を導入すると、「どこまでを自分でやり、どこからを税理士に任せるか」が不明確になりやすくなります。特にfreeeやマネーフォワードのような自動化機能が豊富なソフトでは、「税理士に頼らずにできそう」と感じる反面、専門的なチェックが漏れやすくなることも。
導入時には、税理士と作業分担を明確にし、定期的に見直すことが重要です。
3. システム障害・セキュリティのリスク
クラウドサービスである以上、インターネット接続が前提となるため、サーバー障害や通信エラーが起きた際には一時的に業務が滞る可能性があります。また、ID・パスワードの管理が不十分だと、情報漏洩のリスクもあります。ソフト選定時には、セキュリティ体制やサポート体制も確認するようにしましょう。
税理士とより良い関係を築くために
クラウド会計は、単に会計作業を効率化するツールではなく、税理士と経営者が「同じ情報をリアルタイムで共有しながら、一緒に経営を支える」ための基盤です。
導入にあたっては、以下の点を意識すると、よりスムーズな連携が可能になります。
- 使用するクラウド会計ソフトを税理士と事前に相談する
- 業務分担を明確にし、責任範囲を定義する
- 月次・四半期など定期的なレビューの場を設ける
- 経営者自身も会計の基本知識を身につける
まとめ
クラウド会計の導入は、税理士との関係性を「委託関係」から「パートナー関係」へと進化させる大きなチャンスです。リアルタイムな情報共有や業務の効率化が進む一方で、操作ミスや役割の不明確さといった注意点もあります。
クラウド会計のメリットを最大限に活かすためには、税理士との信頼関係をベースに、適切な連携体制を築いていくことが不可欠です。導入前にしっかりと準備を整え、継続的な見直しを行いながら、自社にとって最適な形を模索していきましょう。